2.安全装置の発達

2-1 モーメントリミット装置

モーメントリミット装置の荷重検出は、巻上ワイヤロープ張力により天秤機構でスプリングを圧縮させて荷重を検出する。作業半径はジブ角度をリンク機構で検出する。そして、双方の移動量をカム機構で接触させてクレーンを停止させる装置である。
初期のモーメントリミット装置ではスプリングの圧縮量とカム機構なので精度もあまり良くなく、オーバ荷重でジブの折損事故が何度か発生し、もっと精度の良いモーメントリミット装置の必要性が望まれた。

2-2 電子式モーメントリミット装置

昭和41年製のUT3030には当時すでに電子式安全装置が取付けられていた。
昭和42年に安川電機社製の電子式荷重変換器「マグネセル」を従来型モーメントリミット装置の荷重検出用スプリングに替えて取付け、つり荷重で「マグネセル」を圧縮させ電気信号に変換し、運転室に取り付けた表示メータでつり荷の重量を目視できるようにした。結果は良好で、タワークレーンのモーメントリミット装置に使えることを確認した。

次に作業半径を検出する方法として、ジブ角度をポテンションメータでタワークレーンの性能曲線を許容荷重信号に変換し、マグネセルよりのつり荷重信号と比較し許容荷重に対し90%でブザーを鳴らし、100%で巻上動作を遮断する新型のモーメントリミット装置を開発し実用化した。愛称をACS(Auto Crane Stop)と名付けた。当時すでにタワークレーンの保有数は14~15台あり全機交換した。
昭和47年に、モーメントリミット装置はクレーン構造規格で過負荷防止装置の取付けが義務付けられ、日本クレーン協会で型式検定を行なっている。

2-3 通信装置

タワークレーンの運転室は高い位置にあり、地上の玉掛け者との交信は、目視による確認がなかなか困難な状態にある。玉掛け合図を正確に運転者に伝えるには、中継者による手信号か有線電話(頭載式電話)等で行われていた。
無線装置の性能が向上するとともに市販品も手軽に入手できるようになり、現在では玉掛け合図の大方が無線装置を利用して行われている。
ジブ先端に八木アンテナをつり下げて、常時アンテナ先端を地上に向けて指向性を良くし、外部信号から自身の信号を守っている。無線装置は運転室に親機を置き、地上の玉掛け者と鉄骨上の作業員に子機を配置する。親機1台:子機2台、または親機1台:子機4台の組み合わせが主流である。
電話では内線電話や外線電話(NTT回線)を運転室に引き込むことでタワークレーンの故障時に修理担当者やメーカ技術員との連絡になかなか有効であった。また事務所への連絡にいちいちマストの梯子を昇り降りしなくても良くなった。
現在では携帯電話が普及し、何時でも、何処でも使えるので組立指導員も、部材搬入の手配をタワークレーンの機上から出来るので非常に有効なツールとなっている。

2-4 テレビ監視装置

昭和46年の大林組本店ビル工事では、タワークレーンのジブ先端にテレビカメラをつり下げて、地上の玉掛け作業の状態と揚重中のつり荷の状態を監視できるようにした。
現在では運転室を有するタワークレーンには、全てテレビカメラが取付けられている。そのテレビカメラも当初は白黒画像であったが、昭和60年代始めにはカラーカメラが採用された。カラー映像はそれまでの白黒画像とは比較にならないほど情報量が多く、オペレータの負担を軽減した。レンズも固定焦点の望遠レンズからズームレンズとなり、運転室からテレビカメラをリモコン操作が出来るようになっている。
ジブ先端踊場につり下げたテレビカメラには、ジブの起伏に合わせて常にテレビカメラが鉛直となり地上の画像を捕えるようにカメラつり金具が取付けられている。当初のカメラつり金具はピンボルト1本に簡単なブレーキ装置はあったがテレビカメラが、タワークレーンの動作や風等により揺さ振られモニタの画像がゆらゆらとのフラ付いてしまうのでディスクブレーキ機構を追加した。
その後は、装置メーカで油圧式アークチェータを組み込んだセット品で市販されるようになった。現在では一般に広く普及し、近年クローラクレーンでも幅広く利用されている。

2-5 作業範囲規制装置、接触防止装置

市街地や公共交通機関等の側では、タワークレーンのジブが作業敷地より外に出る事は第三者に対し危険を及ぼす恐れがあるので、タワークレーンの作業範囲をコントロールする必要がある。昭和48年に岡部技研工業がセルシンモータとポテンションメータによる[O式作業範囲規制装置(ABL)]を開発した。それまではリミットスイッチとカムで作業範囲を規制していたので規制作業もなかなか大変であった。
また、タワークレーンを複数台設置する現場では、隣接するタワークレーン相互のジブが接触する恐れがあるので、相手方の現在位置情報を相互に通信して、タワークレーン同志のジブ接触事故防止を行っている。市街地では電話局、放送局、官庁等のアンテナより発信されるマイクロウエーブ等の電波が現場近くを通っていることがあるのでその伝播路に入り込まないように制御することも出来る。現在ではごく当たり前になり、多くの周辺機器メーカがパソコンを利用した同種の装置を開発して販売している。

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