1.タワークレーンの発達(つづき)
1-5 第三世代 油圧クライミング式タワークレーン
昭和44年11月には超高層ビル建設でタワークレーンのフロアクライミングが必須となり、油圧クライミング装置を装備したタワークレーンJCC200が開発され、昭和45年2月に稼動を開始した。その後フロアクライミングシステムは急速に進歩した。(右写真:JCC200H)
フロアクライミングでは架台受梁の盛替がなかなか大変で、後年アウトリガ伸縮方式の受架台も開発された。現在ではJCC400Hのフロアクライミングを1日で楽に終了するまでにシステム化されている。
石川島播磨技報「昭和45年3月 第10巻 2号 201頁」にJCC200の開発について報告されている。報文名「建築用クライミングジブクレーンにおける油圧式昇降装置の概要」の中で、昭和42年に製鉄所の高炉建設向け60トンクライミングジブクレーンに油圧式昇降装置を採用し好評を博し、12トン建築用クライミングジブクレーンに同様の方式を採用したとある。
フロアクライミングでタワークレーンが高くなるに伴い下方監視のため、昭和46年の超高層ビル工事では、ジブ先端にテレビカメラを取付けて運転室内のモニターで玉掛け作業と揚重中のつり荷監視が出来るようにした。併せて、運転室のオペレータの足元の床にガラス窓を設けて下方視界を良くした。平成3年にJCC1500H (横浜ランドマークタワー)の運転室に床ガラス窓を採用している。
1-6 第四世代 超高層用タワークレーン
それまでのタワークレーンでは巻上速度をクレーンモータと2次抵抗器による変速とさらに減速機に電磁クラッチを入れて2速あるいは3速に可変できる機種とがある。
超高層ビルの時代になると、巻上げ所要時間の短縮が課題となった。一般的に巻下時にはつり荷重がないことから、巻上減速機に親モータ(クレーンモータ)と子モータ(高速用カゴ型モータ)の2台を取付けて、巻上・巻下の空フック時には子モータを作動させて高速運転が出来る機構にしている。(JCC200・OT10030)
その後の技術の進歩により、つり荷重が小さい時には速度を速く、つり荷重が大きい時には速度を遅く(電車が駅を出発する時のように)出来るサイリスタレオナード方式の直流モータを採用した巻上ウインチを開発した。(OTA6030・JCC400H)
直流モータはケーブルクレーン等の大型機種では既に使用されていたが、サイリスタによる直流運転は当時の新技術であった。昭和45年に勤務していた堂島関電ビルで設置された三菱電機社製ビル用本設エレベータは、直流モータ駆動であったが、直流発生装置には交流モータ駆動の直流発電機(MG)であったことからしてもサイリスタは当時の最新技術であったのではないだろうか。超高層対応のタワークレーンには、建物高さのHighと高速のHigh-Speedの頭文字Hにちなみ、機種の後ろに「H」を付けてJCC400H・JCC200Hと呼ばれるようになった。
当時、超高層用タワークレーンには石川島播磨製JCC400H(昭和46年)、小川製作所製OTA6030(昭和47年)がある。
1-7 解体用クレーン
タワークレーン解体も初期の段階では主に三脚デリック等が使用されていた。その後ジブクレーンが開発され、解体に使用されるようになった。しかし、そのジブクレーンを解体するのにまたひと苦労していた。
大阪大林ビルでは、タワークレーンJCC200の解体に使用したU60Hの解体用にU16分解型を開発した。 U16分解型は手作業で1トン以下に小バラシを可能にした。U16分解型の搬出には屋上スラブにダメ穴を設けて、本設エレベータが利用できるフロアまでモータブロック等を使用して部材をつり降し、台車に載せて搬出した。
現在では300mの屋上からの解体にも対応出来るようにJC150H・JC40・JC5、U40H・U16S・UO5と解体用機械もシリーズ化されている。
1-8 自立高さ
それまで旋回体の前面にあったジブ根元ピンの位置を、旋回中心より後方に移動させることによりマストの真上が開放タワークレーンの自立高さは、鉄骨との背比べで鉄骨の節割が長くなると、タワークレーンの自立も高くしなければならないがむやみに高くは出来ない。
昭和39年当時のOT3030・OT4030・OT5050・OT6030ではマスト高さ6m×3段の18mであった。KTK180Wではマスト高さ6m×5.5段の33mと当時最高の自立高さを誇っていた。
昭和45年JCC200では6m×4段の自立高さ24mになっている。その後も自立高さの要求はつづき、強化マスト、超強化マストと開発されたので初期のマストを標準マストと称し、マストを区分している。強化マストが出来る以前は、標準マストの一部を補強した強化マスト(低部用マスト)があり、用途としてはベース架台上の斜めステーが邪魔になる時に、斜めステー無しでも24m自立を確保するために使用した。
JCC230H・JCC300Hでは強化マストと超強化マストの組み合わせでマスト6m×5.5段の自立高さ33mを確保している。JCC400Hの初期はマスト4.5m×6段自立の27mであったが、昭和56年成田山の大塔工事で建物から水平ステーが取れないことで自立を1段高くした。現在ではマスト4.5m×7段自立の31.5mが標準型となっている。JCC900Hではマスト4.5m×8段自立の36mとなっている